「日本ワイン」がこの10年で飛躍的においしくなり、海外のワインコンクールなどで入賞するなど国内外で絶賛されています。その日本ワインを醸造しているワイナリーの中でも話題になっているのが都市型ワイナリー。そこで今回は、料理研究家の吉田めぐみさんとともに、東京にある「清澄白河フジマル醸造所」へ取材に行ってきました。吉田さんはワインエキスパートという資格をとってしまうほどのワイン好き。ワインを楽しむ際に、アツいワイナリー・レポートを参考にしてください。(公開:2018年7月17日/更新:2022年1月29日)
吉田めぐみ
★★★料理研究家/ワインエキスパート(J.S.A.)、日本ワイン検定2級、コムラード・オブ・チーズ(C.P.A.)、唎酒師(ききさけし)、野菜ソムリエプロ、江戸東京野菜コンシェルジュ、調味料ソムリエ、ベジフルビューティーアドバイザー、フードコーチ、ジュニア食育マイスター、IFAオリーブスペシャリスト、ABC Cooking Studio ブレッドライセンス(パン職人の経験も)など他にも資格多数(2021年7月現在)。セミナーやカルチャースクール講師、ラジオ出演、コラム連載、料理撮影協力など様々な分野で幅広く活動中★★青森野菜専門店「ひだまりマルシェ」アンバサダーとして店頭販売も(不定期)。★ミキハウス子育て総研発行の育児情報誌『Happy-Noteハッピーノート』にて、ファミリー向けレシピ、離乳食レシピを担当。また、[KAGOME VEGEDAY]にて料理再現協力。
東京・清澄白河でおいしいワインが醸される!
「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことを皮切りに近年、世界的に日本の食が注目を浴びています。その中でも「日本ワイン」の注目度はうなぎ上り! 日本のワイン産地といえば、山梨、長野、北海道などが有名ですが、近頃では「都市型ワイナリー」が増えていて、その名の通り、都心部にワイナリーが作られるという新たな試みが見かけられます。そんな都市型ワイナリーの先駆けである「清澄白河フジマル醸造所」を訪ねてみました。
「清澄白河フジマル醸造所」(以下、フジマルさん)は、東京の清澄白河に、2015年に誕生したワイナリー。実際に訪ねてみると、住宅街に溶け込むように……一見、どなたかのご自宅のようにも見える外観。実際に大家さんが上層階に住んでいらっしゃるらしく、ワイン好きの私としては、「下層階にワイナリーがあるなんて、なんと夢のような!」という感想を抱かずにはいられませんでした(笑)。
清澄白河(きよすみしらかわ):元々、清澄白河は歴史ある下町だったが、明治以降は物流の拠点で倉庫街として機能。2015年、ブルーボトルコーヒーが日本初出店したことから再注目され、個性的なギャラリーや書店、カフェ、チーズ専門店などが増えている。
「清澄白河フジマル醸造所」は1階が醸造所。2階はレストランとテイスティングルームになっています。
まずは醸造所を、店長の室谷統(むろたに おさむ)さんにいろいろとお話をうかがいながら見学させていただきました。
ちょうど取材をさせていただいた時は稼働期ではなく、醸造所には静かにワインがタンクに眠っている状況でした。稼働期は毎年8月中旬から2カ月くらい。ブドウの収穫期に忙しくなります。それまでの間は寝かしてあるワインの状態を見ながら良き頃合いに瓶詰め、出荷の作業をするそうです。瓶詰め作業時は衛生上、見学はできませんが、それ以外の作業の様子は希望者は見学が可能です。やはり稼働期の様子をぜひ見てみたいですよね! 8月以降が注目です!
フジマルさんは、契約農家さんからの買い付けブドウでワインを作っています。その中でも山形のデラウエアを中心にワインを作っているそうです。では、なぜ、デラウエアなのか? 元々、ワイン用ブドウは小ぶりのものが適しているといわれています。大粒のものだと水分量が多く、大味になる傾向にあるからです。デラウエアは主に食用のブドウですが、小ぶりでワイン用ブドウとしての可能性を見い出しての採用だそうで、デラウエアを使って、何種類ものワインを作っています。また、白ワイン、赤ワイン、その他のワインの比率は、おおよそ白5:赤3:その他2の割合とのこと。
都市型ワイナリー「清澄白河フジマル醸造所」
そして、フジマルさんの特徴の1つは「都市型ワイナリー」ということ! 都心部でワイナリーを構えることのメリットは、「注目してもらえる」こと。発信していく上で、東京という場所は適しており、メリットの方がとても多いようです。
あえてデメリットをあげるとしたら、まずはキャパシティの問題。フジマルさんは元々、早飲みタイプのワインを作っているので、その年にできたワインは、その1年のうちに販売し、スペース確保をしていくというのが理想だそう。しかし、1年ですべてを売り切るというのは現実的には難しく、少しずつたまって行くストックにスペースが取られてしまうのが悩みどころとのことです。あとはゴミ処理の問題。ワイン作りでは、ブドウの茎の部分がどうしてもゴミになります。本来、ワイナリーが畑の近くだと、土に埋めるなど肥料として使うという方法を取れるのですが、都心ではそうはいかないので、ゴミとして出さなくてはならない。また、ワイナリーが住宅街に位置していることもあり、ブドウの甘い香りに虫が寄って来たりするので「その配慮が大変といえば大変」とのお話でした。
それでも、街中にある理由は、会社の理念である【ワインを日常に】という視点から、街中にレストランを併設したワイナリーを作ることにあります。「より気軽にワイナリーに行ける」「ワインが日常になる」という狙いがあってのことなんですね。
季節に合った生樽ワインと絶品のマリアージュ!
醸造所をひと通り見せていただいた後、2階のレストランを案内していただきました。
レストランとテイスティングスペースが併設されています。木目調の店内はオシャレで、なおかつ、ホッとさせるような温かみのある造り。落ちついてワインやお料理を味わえる内装です。
せっかくレストランにお邪魔したので、おすすめ料理&ワインをいただくことにしました!
夏の時期のオススメはこの2品でした。
トマトのスープの中には、ブラックオリーブ、ケッパーベリー、フェタチーズなどが入っています。ガスパチョみたいなスープです。
オリーブの風味が豊かで、トマトの爽やかな酸味と、ギリシャのフェタチーズの酸味のバランスが絶妙! 口の中に爽やかな夏が来る! そんなスープです。
ケッパー、シチリア産のアンチョビ、黄色パプリカなどが軽くソテーして、散らしてあります。食用花も。色彩もキレイ。パプリカの優しい甘さがよく合う1品。マグロはシンプルに塩味でソテーされていますが、パプリカの優しい甘さとの相性が抜群! ケッパーやアンチョビ、オリーブなどがアクセントとなって、複雑な風味を生み出しています。
そして、そして!
2つのお料理に合わせていただいたワインは「山形県産のメルロー100%の生樽ワイン」(グラス/700円(税別)。非常に華やかさのある赤ワインで、通常メルローといえば、比較的高い温度帯で飲むことが多いのですが、フジマルさんのメルローは冷やして飲むのに適しているので、前菜との相性が抜群。お料理2品とも、前菜系のお料理なので、このワインがとてもよく合います!
スープの色やマグロソテーのパプリカソースと同色のきれいなオレンジがかった赤色。お料理の色とワインの色を合わせるというのも、マリアージュのコツなので、それに見合った組み合わせだと思いました。さすがです!
こちらの生樽ワインはフジマルさんのおすすめだそう。普通は瓶詰めワインを飲むことがほとんどかと思います。ワイナリーが併設されていることのメリットとして、生樽のフレッシュなワインをいただけることにあります。また、瓶代をカットできることによって、なるべくリーズナブルな金額でお客様に提供ができるのもメリット。日本ワインは設備面やワイナリーの立地などにより、海外のワインより価格が高い傾向にあります。そんななかで「おいしいワインをお手頃価格でたくさんお客様に飲んでいただきたい」という社長の思いあっての生樽提供だそうです。
ワインへの愛とオススメが止まらない!
吉田のオススメは、千葉県の菅谷ぶどう園の巨峰を100%使用した「赤のスパークリングワイン」(750ml/3200円(小売価格/税別))! 実は取材の事前の下調べで、吉田がフジマルさんでいただいていたワインです。フジマルさんとしても夏の時期のおすすめワイン! 今回初めて作った巨峰のスパークリングということで、香りは巨峰の甘やかな香りなんですが、味はとてもドライな仕上がりで、泡も強すぎずさっぱりいただけて、夏にピッタリです。
もう1つ人気商品として挙げておきたいのが「オレンジワイン」。生産本数が少ないので売り切れ必至です。白ワインでは、種や皮を取り除いて製造するのが普通なのですが、オレンジワインは、それらも一緒に醸すので、独特のコクや旨味、タンニンを感じる奥深い白ワインになります。ほのかなオレンジ色がつくことから、オレンジワインと呼ばれ、近年とても人気が出てきています。
吉田が事前にいただいたのは「デラウエアペリキュリエールby Sato」(750ml/2950円(小売価格/税別))。山形県産デラウエア100%使用のオレンジワインです。外観は淡いオレンジ色。焼きたてパンをかじったような香ばしさのある風味豊かなワインです。
また、吉田的におもしろいと思ったワインは「テーブルトップ・ロザリオビアンコ」(750ml/2300円(小売価格/税別))。これは生食用ブドウのロザリオビアンコを使用しためずらしい白ワイン。こちらも巨峰同様、今回初めて作った白ワインだそうです。薄濁りな外観は、旨味などの必要なものを流さないために、濾過のフィルターはわざと粗めにしているそう。飲むとミルキーな味わいもありつつの、さっぱりとした味わいで、こちらも夏にぴったりの白ワイン。
…などなど、全体的なフジマルさんのワインの印象としては、ライトで穏やかなタイプが多い印象です。赤ワインでも、例えば、取材時にいただいたメルローや事前下見でいただいた「カベルネソーヴィニヨン」も、海外のそれらとは全く印象の違う仕上がりになっています。
しかし、何よりもエレガントで繊細。優しい味わいなので、するすると飲み進めることができる。食事と合わせたらいくらでも飲めてしまうという印象です。特に、お酒があまり強くない方や女性に好まれるような味わいなのかなと思いました。実際、フジマルさんに訪れる方の大半は、女性だそうです。また土日には、おじいちゃん、おばあちゃんとご家族連れも。老若男女、幅広い方々に好まれ、愛されるワインであることはお客様の層を見ても感じ取ることができました。
そんなフジマルさんの醸造担当の方々は、ポリシーとして、ブドウ本来の味わいを大事にした作り方をされているとのこと。なので、通常のワインではアルコール度数を上げ、味わいにパンチを利かせるために補糖をすることも多々あるのですが、フジマルさんでは補糖はせずに優しく仕上げる。そのため、アルコール度数が比較的低めに仕上がることも飲みやすくなる理由の一つかもしれません。
親と子でワイン作りが楽しめるイベント
「清澄白河フジマル醸造所」では毎年、ワイナリー稼働期には子供たちとともにワイン作り体験を行っているそうです! 限られた人数での募集で、毎回抽選になるほどの人気ぶり。実際にブドウの房から粒などを外す作業から始まり、足でワインを踏んでジュースを作ります。ジュースまでの作業が終わったら2階のレストランでランチ。そこで自分たちで絞ったブドウジュースを飲むことができます。
その後、ブドウジュースを寝かせて、ワインにする工程はフジマルさんにお任せ。ワインが出来上がったら後日、参加者にお届けするということです。子供たちが大人になるまで寝かせておいて、20歳になったら飲むことができるというのも、何とも夢のあるお話ですよね。この企画には食育的な狙いがあるとのこと。将来、ワインを飲む機会があるであろう子供たちにも「小さい頃の楽しい思い出として、ワイン作りを思い出していただけるように」「ワインに馴染んでいただけるように」との思いがあるそうです。
昨今、都市型ワイナリーは、別名「マイクロワイナリー」とも呼ばれ、全国的に増えてきています。数百万本単位で作られている海外のワイナリーから見ると、都市型ワイナリーの生産本数は、非常に少なく、フジマルさんでは、年間2万本ということで「趣味の領域だね」と海外の方々から言われることもあるそうです。でも、都市型ワイナリーであるからこそのメリットや可能性は無限大だということを今回の取材を通じて感じました。むしろデメリットの方が少ないということも。
【ワインを日常に】という理念のもと、作られた清澄白河フジマル醸造所。「地域密着型」「食育」「ブドウ本来の味わい」を大切にして作るワイン。お客様に「たくさんのおいしいワインを飲んでいただきたい」。そのためのコスト削減などなど、ブドウに対しても、人に対しても、思いやりのたくさんつまった温かいワイナリーであるということが随所に感じられる今回の取材でした。
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ちなみに、「清澄白河フジマル醸造所」で行われている「子供たちのワイン作り体験」や毎年11月の「新酒祭り」などのイベントは、下記のFacebookページにてイベント告知がありますので、気になる方はこまめにチェックを!
今回、取材にご協力いただいた「清澄白河フジマル醸造所」の店長・室谷統さんはじめスタッフの皆様、本当にありがとうございました。
ワイナリー&レストラン
清澄白河フジマル醸造所
URL:https://www.papilles.net/
Facebook:https://www.facebook.com/kiyosumishirakawa.fujimaru/
営業時間:
◎レストラン
ランチ 11:30~14:00(LO)
ディナー 17:00〜21:30(LO)
◎ワイン販売・テイクアウト
11:30〜21:30(LO)
定休日:月曜日、火曜日(祝日の場合は翌水曜日)
TEL:03-3641-7115
住所:東京都江東区三好2-5-3 2F
アクセス:[清澄白河駅]東京メトロ半蔵門線B2出口より徒歩約5分、都営大江戸線A3出口より徒歩約7分
●取材・文= 吉田めぐみ(料理研究家)
●撮影= 清水亮一(アーク・コミュニケーションズ)
●編集= 魚住陽向(フリー編集者、小説家)